マダガスカル語について
マダガスカルの布ランバ。
WAO?×WAO!より。

 最初に四つほどクイズに答えて頂きたい。まず、一人あたりの肉の消費量が世界一の国はどこだろうか? 正解はモンゴルである。なるほどと思った人も多いだろうが、最初に思いついた人は少ないのではないだろうか? つぎに、一人あたりの魚の消費量ではどうか? 正解はアイスランドである。日本をかなり上回っている。一人あたりの野菜の消費量はどうだろう? 2位中国、3位韓国を抑えてギリシャがトップに立っている。では、最後に一人あたりの米の消費量はどうだろう? 正解はマダガスカルである。今度は「えっ」と思う人が多いのではないだろうか。そんな国どこにあるのか、と思う人も多いだろう。

数詞の比較
  タガログ語 インドネシア語 トンガ語 マダガスカル語
isa satu taha iray(isa)
dalawa dua ua roa
tatlo tiga tolu telo
apat empat fa efatra
lima lima nima dimy
anim enam ono enina
pito tujuh fitu fito
walo delapan valu valo
siyam sembilan hiba sivy
10 sampu sepuluh hongofulu folo

 マダガスカルは、アフリカ大陸南部の沖合いにある、日本よりかなり大きな島国である。島国であるがゆえに大陸とは異なった歴史を歩んできたという意味では、日本やイギリスやスリランカと同じである。しかし、マダガスカルの場合、大陸との違いはいっそう劇的である。マダガスカルの農村は一面の水田がひろがり、日本人には懐かしさを感じさせる風景となっている。マダガスカルの言語は、対岸のアフリカ大陸の言語とは何のつながりもない。それよりもインド洋をはるか6400キロも離れたインドネシア語やタガログ語(フィリピンの公用語)や南太平洋のトンガ語などと明瞭なつながりをもち、同じアウストロネシア(南島)語族に属している。アウストロネシア語族は、東は南米大陸に近いイースター島にまで広がっていたのだから、近代に入ってのヨーロッパ系言語の拡散以前には、最大の広がりを見せた語族だといってよい。

 今のマダガスカル人にはアフリカ的な顔立ちの人が多いが、アジア的な顔立ちの人も少なくない。しかし、顔立ちは多様でも言語は統一性が高く、アフリカの多くの国が独立の際、国内に数多い言語のどれを公用語にするかを決めかね、結局は旧宗主国の言語を採用しているのに対し、マダガスカルはフランスから独立するとき、迷わずアウストロネシア語族に属するマダガスカル(マラガシ)語を公用語として採用した。

 マダガスカル人の先祖のうち、インド洋をはるばる渡ってきた人々がいつ、どのように来たのかはまだよく分かっていないらしい。しかし、いわゆる大航海時代などとは比較にならないほど昔のことであることは確かである。マダガスカルは地質学的にもどの大陸ともつながっていなかった時代が長く、原猿類など独特の動植物で知られる。それとは時間のスケールが違うが、人文的な面でもきわめてユニークな島なのである。

 マダガスカル語には、膨大なことわざがあり、弁論や演劇が盛んであることなどは聞いたことがあるが、この国についての私の知識はきわめて乏しく、もっとこの国のことを知りたいと思っている。世界の歴史というものがいかに多様であったのかを示す教材として、この国ほど興味深い国も珍しい。インターネットを始めた当時、北海道にマダガスカル出身のタンテリさんという人が留学していて、ホームページを開いていることをサーフィン中にたまたま知った。タンテリさん自身のページにもマダガスカル語入門など興味深い記事が多く、写真も多いが、専門的な研究も含めリンク集も豊富なので、この国についてもっと知りたい人は下のタンテリさんのバナーをクリックされたい。外国といえば欧米しかないという日本人のひどく偏った世界像を修正するには絶好の国だと思う。

 最後に恥さらしな話を一つ。むかし、ベストセラーとなった北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」は、マダガスカルには「アタオコロイノナ」という神様(のようなもの)がいて、「原住民」(昔の言葉だ)の言葉で「何だかへんてこりんなもの」という意味だという話から始まっていた。リンクをはるにあたってタンテリさんに問い合わせたところ、「ぜんぜん知らない。アタオコロイノナという名前も解釈できない。マダガスカルのどこですか? 方言としか考えられない」とのことであった。やはりどくとるマンボウお得意の口から出任せだったようである。


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