新日本語入力方式の提案

左右同時打鍵方式
 日本語の入力方式はローマ字入力が広く普及し、9割前後にも達している。しかし、ローマ字入力には、打鍵数が多くなるという大きな欠点がある。それでもJISかな入力や親指シフト方式に乗り換える人が少ないのは、まず第一に文字配列が覚えにくいからであろう。パソコンが普及し、仕事として配列を覚えるという契機の無い人が多数を占める現在、この覚えにくさがかな入力の普及にとって大きな制約となっていることは否めない。

 4段を使うJISかな入力は指の移動距離が大きい。親指シフト方式は親指シフトとそれに続く打鍵の間に無駄な時間が生じる。そこで私は、まったく新しい日本語入力方式を考えようと思った。キーボードは、もうすっかり普及した日本語キーボードをそのまま用いる。

 なにぶん、文系の人間として技術的なことには疎いのだが、ここに書いたことは技術的にも可能と考えるし、技術畑の人から十分可能だとのメールを頂いたこともある。仮に可能でなくても、技術はアイデアのあとを追いかけるのが常なので、こういう日本語入力方式を実現してほしいという要望として読んで頂きたい。
 ひらがなが書かれたキーは、打てばそれぞれ表示の通りのア段のカナが出てくる文字キーである。携帯メールを打ったことのある人なら、日本語にいかにア段の音が多いかを実感していると思う。「朝が」「夜は」「静かな」「書いた」「大丈夫だ」の「が・は・な・た・だ」など、使用頻度の高い語も多い。「和歌山」という県名なら、ローマ字入力だとwakayamaと8打も必要なのに対し、携帯メールならたった4打で済む。携帯と違って連打によって字が変わっていくわけではないから、ア段の文字を続けて出したいときは、それを連打すればいい。たとえば「ささ」は「さ」を2回打てばいい。

 右側のキーのうち、カタカナで記した「イ・ウ・エ・オ・ヤ・ユ・ヨ・オウヨウ・ユウ・エイ・アイ」の12個のキーは、それだけを押しても文字は出ない、待機・変換キーである。今の日本語入力でいえば、無変換キーがこれに当たる。待機・変換キーにしないと、同時に押したつもりでも機械は僅かな差を読み取り、意に反する結果が出てしまうが、待機・変換キーなら、この心配はない。たとえば「か」と「オ」を同時に打って「こ」を出したいとき、「オ」を先に読み取ったときにはシフトと同じ役割を果たす待機キーとして働いて最初から「こ」が表示され、「か」を先に読み取ったときには一旦「か」となるがすぐに「オ」が変換キーとして働いて「こ」に変換されることになって、いずれにせよ結果は同じである。親指シフト方式では、シフトを先に押さないと違う字が出てきてしまうが、本案ではどちらを先に押すかということに神経を使う必要は無い。

 待機・変換キーのうち、日本語入力に不可欠なのは「イ」「ウ」「エ」「オ」の4つだけである。この4つは右手のホームポジションに配当されているので、右手の各指がこの位置から外れることは「ん」「っ」「を」「ー(長音記号)」や句読点や括弧を打つときだけである。「ヤ」以下の8つは入力を速くするためのもので、これ無しでも日本語入力は可能である。

 「ヤ」「ユ」「ヨ」の三つの変換キーにより、「きゃ」「しゅ」のような拗音がJISかな入力や親指シフト方式よりも容易に出せるようになる。また、日本語の語彙の半分強を占める漢語には、「い」「う」で終わる二重母音が極めて多い。その中でも「オウ」「ヨウ」「ユウ」「エイ」「アイ」は特に多いので、専用のキーを設けた。漢語に限らず、「神戸」「どうする」「泣いている」などの和語にも応用が利く。

 文字キーと待機・変換キーの組み合わせによりどんな字が出てくるかを一覧表にしてみた。五十音図をもとにした表として変則的なものは赤字で示した。「ファ」「ティ」などの外来音は小文字と組み合わせて表示すればいい。この表には空白の部分もあるので、この空白を利用して「・」「ケ」「々」「~」などを出せるようにしてもよい。
そのまま オウ ヨウ ユウ エイ アイ
おう よう ゆう えい あい
きゃ きゅ きょ こう きょう きゅう けい かい
しゃ しゅ しょ そう しょう しゅう せい さい
ちゃ ちゅ ちょ とう ちょう ちゅう てい たい
にゃ にゅ にょ のう にょう にゅう ねい ない
ひゃ ひゅ ひょ ほう ひょう ひゅう へい はい
みゃ みゅ みょ もう みょう みゅう めい まい
りゃ りゅ りょ ろう りょう りゅう れい らい
               わい
ぎゃ ぎゅ ぎょ ごう ぎょう ぎゅう げい がい
じゃ じゅ じょ ぞう じょう じゅう ぜい ざい
ぢゃ ぢゅ ぢょ どう ぢょう ぢゅう でい だい
びゃ びゅ びょ ぼう びょう びゅう べい ばい
ぴゃ ぴゅ ぴょ ぽう ぴょう ぴゅう ぺい ぱい
          
 現行の無変換キーは、押し続けると、ひらかな、カタカナ、半角カナと目まぐるしく表示が変わるが、本案で用いる待機・変換キーは、単純に押せばその段、放せばア段ということにすればいい。「子供心」と打ちたければ、「オ」キーを押したまま、左手だけを動かせばよいが、「なにぬねの」と打つときには「な」キーをそのたびに押さなければならない。「左右同時打鍵方式」というと常に左右の指を同時にガツガツと押さなければいけないように思う人がいそうだが、たとえば、「みはころのまだから」(日本語には同母音の連続は多く、特にオ段は多い)では同時打鍵になるのは赤字で記した3つだけであとは左だけを動かすことになる。一方右だけの単独打鍵も、「ん」「っ」「を」や句読点などで結構多い。

 本案では、初めからムキになって同時打鍵をしようと思う必要は無い。ここを2打で打っても右手の指がほぼ固定されているのでローマ字入力よりは十分に速いし、なれるにつれて間隔は自然に短くなってゆき、やがて単独のキーを押すのと変わらぬ時間で同時打鍵ができるようになる。

 変換を頻繁に行う日本語で、確定に用いるEnterキーや、訂正に用いるBack Space(後退)キーが右上の隅に置かれているのは実に不便である。一方で現行の日本語キーボードでは、親指で打ちやすいところにあるスペースキーが「無変換」「(前変換」「カタカナひらがな」キーという、不要不急のキーによって、見る影もなく小さくなってしまっている。特に、「カタカナひらかなキー」など、入力方式を途中で変える人がいるとも思えず、打ちやすい大事なところに割り当てる必要は全く無い。本案では使用頻度の高い確定キーをEnterキーの所から前変換キーの所に移し、Enterキーの所に後退キーを移し、空いたところに前候補キーとカナカナひらがなキーを移した。後退キーには訂正以外にも熟語で打って一部を消して求める漢字を出すなどの用法もあり、使用頻度は極めて高い。


 子音の配列は日本人の慣れた五十音の配列に基づいたが、左から右ではなく、右から左の配列とした。これは、日本語の音に五十音図前半の行の音が多いことに配慮したためである。中段によく使う行が並び、上段の右端で後半の中ではよく使うは行が出せ、濁音を配置した下段の右端で助詞の「が」が容易に出せるので、覚えやすい上に効率的でもある。

 英語のqwerty配列にしてもそうだが、かな文字入力の配列が不規則であるのは手動タイプの時代に頻度の高い字を打ちやすいところにということを主眼に考えられたものである。キーを下まで押し切るには人差し指と小指とでは労力に違いがあった。しかし、今のパソコンのキーボードでは、指による打ちやすさに大差は無く、覚えやすさを犠牲にしてまで不規則な配列にする必要は無い。

 本案では、ローマ字からカナ、カナから漢字という二重の変換は起こらず、画面には最初からカナが表示されることに注意されたい。そしてタイピングの速さは、同時打鍵が可能となり、濁音や拗音が容易に打てるようになった以上、ローマ字入力はもちろん、JISかな入力や親指シフト方式をもしのいでいる。しかも本案のキーボード配列は、誰でもすぐに覚えられるので、普及の可能性は高い。


 「たいがんじょうじゅ(大願成就)」はローマ字入力ではjを用いて11打必要である。JISかな入力では濁点を含めて12打だが、さらに拗音を出すために2度のシフトが加わるので、むしろローマ字入力より打鍵数が多くなる。親指シフトでは「た・い・が・ん・じ・ょ・う・じ・ゅ」の9打で濁音、拗音のとき以外はシフトの要らない字が続くが、それでも5度のシフトが加わる。本案では「た・アイ・が・ん・ざ・ヨウ・ざ・ユ」の8打でシフトは一つも無いが、実際には確実な左右同時打鍵で「たい・が・ん・じょう・じゅ」と出すことになり、5打で打つのと変わらない速さが達成できる。

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